東京地方裁判所 昭和50年(ワ)3685号 判決
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【判旨】
四そこで、原告の異議の申出につき、正当事由の存否を判断する。
1 <証拠>および弁論の全趣旨によれば、つぎの事実を認めることができ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。
原告所有建物は、木造瓦葺モルタル塗二階建店舗兼居宅一階66.94平方メートル、二階40.19平方メートルの構造で、昭和三九年七月一日、終戦後建てられた平家建家屋を取り毀して約一〇〇平方メートルの敷地上に築造されたものであるが、一階には、六坪の事務所と六畳居間および台所、土間があり、二階には、六畳と八畳の居間および洋間一室があり、原告夫婦、原告の長女夫婦およびその子供(小学生)二人が居住用に利用する一方、一階事務所および土間において、原告がその代表取締役である有限会社酒井製作所が大学等研究者の実験用のガラス器具の製造販売業を営んでいる。それで原告は、家族の居住部屋とガラス製品の置場所に不自由があり、本件土地上に原告が家屋を新築する必要があると考えて、被告に対し、昭和四九年六月二二日到達の書面をもつて昭和五〇年四月末日をもつて本件土地の明渡を求めたものであり、本訴提起後、その和解期日において、本件土地を明渡す場合は立退料として被告に対し一、〇〇〇万円を支払う用意がある旨の条件を呈示した。
2 <証拠>および弁論の全趣旨によれば、つぎの事実を認めることができ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。
被告は、昭和三年ころから、本件土地で板ガラスの販売業を営んできたが、その周辺は、東京大学医学部附属病院を得意先とする医療用ガラス製品を販売する商店が多く構えており、右業種に適した立地条件にあつて、本件建物で、合資会社五十畑商店の代表者として、長女の手伝を得て、主として医療用板ガラスを販売していて、なお今後ともこれを継続する意思を有するが、本件土地を離れて右営業を維持できないものである。本件建物は、数度にわたる増築の結果、一階には、事務所、作業場、台所、浴室、四畳半の居間があり、二階には、板間、六畳二間および四畳、八畳各一間があって、これを現在は、被告夫婦、その長女、次女が居住して使用し、特に次女は、二階の一部を利用して刺しゆうと英語教室を開設しているところ、四女は、昭和五二年三月に嫁いで他に移転するまで本件建物に居住していた。ところで、被告は、昭和三二年ころから昭和三八年ころにかけて、東京都文京区本駒込二丁目一六番二六、三一ないし三四宅地合計78.48坪を買受け、被告がその代表取締役である株式会社イカハタが同地上に昭和四七年一月三一日鉄骨造陸屋六階建事務所共同住宅作業所を建築した。同会社は、店舗の設計装備及び施工ならびに管理と不動産賃貸を主たる業としており、原告の長男、次男が、実際の経営を担当し、右建物の共同住宅部分の一部に居住している。
3 以上1、2に認定の事実を要するに、原告が被告に対し、本件賃貸借につき解約申入れの目的とするところは、主として、原告所有建物が原告の家族の居住に供するためには狭すぎるので、本件土地を利用して建物を築造する必要があるというのであり、他方、被告が原告の申入れを拒否する理由とするところは、主として、原告及び家族の居住の必要ならびに合資会社五十畑商店の営業場所として継続して利用するために本件土地を必要とするというにあるが、原、被告双方の本件土地の必要性の優劣について検討するに、前叙の認定事実のもとでは、原告の解約申入れの目的は、原告所有建物を増改築する方法によつて達することができ、これが不可能であるとする事情はうかがわれないのであり、被告は、本件土地を自己及び家族の居住用ならびに合資会社五十畑商店の営業用の本件建物の敷地として使用しており、右営業は被告が長年月かけて築き上げたもので、なお将来も、これを継続する意思を有しているのであるから、被告及びその家族が株式会社五十畑製作所所有建物の共同住宅部分に移転することが不可能ではないが、被告はこれにより営業の廃止を余儀なくされ、その他生活上の不便を蒙ることが必至であるものといえるのであつて、これらの事情を勘案すると、原告が被告よりも本件土地を必要とする事情にあるものとは断ぜられないし、原告が本訴において本件土地の明渡料として一、〇〇〇万円を支払う旨の呈示をなしたことをもつて解約申入れの正当事由を補充するものとは認めがたいものというべきである。
よつて、原告の本件賃貸借解約の申入れは、正当事由が存しないものといわざるをえないから、右申入れはその効力を生じないものである。
(遠藤賢治)